だれでも足の脛(すね)を打つとすごく痛いですよね。豪傑で有名な武蔵坊弁慶でも向こう脛を蹴られれば、痛くて泣いてしまいます。ですから向こう脛は弁慶の泣き所と言い、強い人の急所や弱点の例えとされてきました。どうして痛いのかというと脛は皮膚が薄いのでぶつかると骨に直接あたって痛いのだと説明します。ところが実は骨は痛みを感じないのです。
 イラスト by ひろき |
例えば骨折して飛び出した骨をいじっても全く痛くないのです。でも骨折したらすごく痛いのは事実です。これは骨を包んでいる骨膜が痛いのです。骨折すると出血したり、骨が歪んだりして骨膜が刺激されて激痛を感じます。胃や腸も痛みを感じません。大腸内視鏡をやったことのある人ならお分かりだと思いますが、カメラのチューブが通っている間はカメラが何処を通っているか分からないし、ポリープを取るときも痛みは感じません。でもカメラが腸の角を曲がるときやポリープを取るときに腸が引っ張られると痛みを感じます。これは腸を包んでいる腸間膜が痛みを感じているのです。「でもお腹が痛くなるじゃないか!」と言われそうですが、下痢のように腸の動きが激しいとそれが腸間膜に伝わってお腹がキリキリ痛むのです。もう一つ痛みを感じないといえば脳も痛みを感じません。ハンニバルという映画でレクター博士が脳みそをスプーンですくって食べているという恐ろしいシーンを見た方も多いと思います。誰もが脳を食べられているクレンドラーは痛みを感じないのだろうかと思った筈です。でも本当に脳は痛みを感じないのです。頭皮や脳を包む膜は痛みを感じますから脳を出すまでは麻酔が必要です。
話がそれましたが、弁慶の泣き所である脛と同じように肘や膝は皮膚と骨の間が薄そうなのに打ってもそれほど痛くないと思いませんか?試しに机に肘をドンと突いてみてください。それほどでもないでしょう?テニスで膝を突いてもそんなに痛くない筈です。これはどうしてなのでしょう。関節は骨膜から続く関節包で覆われていて関節腔という空間を作っています。関節腔の中には滑液といい粘りのある液が入っています。更に肘や膝など良くぶつかるところや動きが激しい関節では外側に滑液包という袋がついていてクッションの役目をしています。このクッションのおかげで肘や膝は痛みを感じにくいのです。でもこの部分を繰り返しぶつけたり、同じ運動で刺激をすると炎症を起こし、肘や膝がぶよぶよと膨れて痛くなります。これを滑液包炎と言います。これは学生に多いので別の名をstudent elbowとも言います。学生は授業中皆退屈そうに頬肘を突いて聞いていますよね。だからその名がついたのです。同じ姿勢や同じ動作を繰り返すと身体が変化してきます。弁慶の泣き所は脛ですが、学生の泣き所は肘かもしれません。