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アテネを魅了した二人


苦しんでいた。勝てばメダル獲得が確実となる準決勝、斎田悟司(32)と国枝慎吾(20)は万全とはいえないコンディションの中で、勝利をつかむために全精力を費やしていた。
車いすテニス男子ダブルス準決勝は、9月24日、オリンピック・テニスセンター第3コートで行われていた。対戦カードは、第1シードの斎田/国枝組(日本)対第6シードのデビッド・ホール/アンソニー・ボナカーソ組(オーストラリア)。相手はダブルスでは第6シードとはいえ、世界シングルス・ランキング2位のホールがいる。厳しい戦いになることは、容易に予想された。
この前日、斎田も国枝もシングルス準々決勝で善戦しながら敗退。さらに、シングルスの試合後、約1時間半でダブルスの準々決勝をこなした。その疲れをひきずったまま、この試合に臨んでいた。
斎田、国枝の渾身のエース級の決め球を、ことごとくボナカーソに拾われ、ポイントを奪えない。逆にそこからカウンターで攻め込まれるというパターンが続く。蓄積した疲労、「メダルが確実になる」というプレッシャー、そして「打っても、打っても、決まらない」という焦りの中で、国枝は自分のプレーができずにもがいていた。
しかし、その国枝を助けたのは、やはり斎田だった。普段はポーカーフェイスで試合をこなす斎田が、この日は1ショットごとに声を出していた。自分たちのエース級のボールを相手が拾えば、自分たちはそれ以上に拾い、粘り、そして攻撃の手は緩めない。「"走り"で勝り、"気合"で勝る」、それがこの日の"作戦"となった。テニスの技術やレベルは問題ではなかった。どちらがより勝利に執着しているかが、勝敗の分け目だった。
第3コートは、観客の声援に包まれていた。選手、観客を含めた会場全体が、同じボールを追いかけていた。そして試合開始から2時間39分後、ファイナルセット・タイブレーク8−6で勝負が決まった。
勝負が決まった瞬間、斎田と国枝はラケットを投げて喜びを爆発させた。勝利を信じ続けた斎田に引っ張られるように、国枝も最後まで戦い抜いた。斎田の顔には、ようやく笑顔がもれ、国枝の目には安堵の涙が光った。観客はスタンディング・オーベーションで、両者のパフォーマンスを称えた。

金メダルまで、あと一勝にまで迫った。

泣きそうな笑顔の国枝と最高の笑顔の斎田。アテネ・パラリンピックの金メダルを目指してきた斎田と国枝は、その瞬間を二人で味わった。
9月25日、車いすテニス男子ダブルス決勝が、オリンピック・テニスセンターで行われた。初の金メダルを狙う日本の斎田/国枝組は、第2シードのマイケル・ジュレミアス/ラーセン・マジディ組(フランス)と対戦した。
決勝のこの日は、斎田も国枝もほぼ完璧なコンディションで試合に臨むことができた。
「今日は体が軽く感じたので、ぶっちぎりで勝つしかないと思いました」(斎田)
試合開始から、斎田/国枝組は、ほぼ完璧な滑り出しでフランスペアを引き離していった。斎田、国枝両選手の動きに、前日のような硬さは見られなかった。
斎田の強烈なフォアのストロークで相手を圧倒し、積極的にネットに詰めた国枝が、ボレー、スマッシュでチャンスボールを決める。コートを駆け回り、相手に反撃のスキを与えることなく終始積極的に攻めていく。斎田、国枝は、二人のコンビネーションで"世界bPのダブルス"を作りあげていた。

ジェレミアスのフォアがネットにかかり、ついにそのときが来た。アテネでの金メダルを目指してきた、斎田、国枝の夢が実現した。
アテネの観衆は、斎田/国枝組の戦いに酔いしれた。スタンディング・オーベーションの中で、観客やスタッフからはサインを、日本の観客からは「すばらしい試合でした。感動しました」と言って握手を求められた。
「最高です。最高としか、言いようがありません」(国枝)
長かったアテネでの戦いの中で、すべてを終えた安堵と勝利した喜びが二人の表情にあふれていた。

男子ダブルスで金メダルを獲得した翌日、車いすテニス日本代表チームは全員オリンピック・テニスセンターに集まって記念撮影をした。満足のいく結果を残せた選手も、そうでなかった選手もいるだろう。しかし、アテネでの戦いを終えた監督、コーチ、選手全員が、一つの大仕事をやり遂げた晴れやかな笑顔をしていた。 


酒井朋子 (さかいともこ)

大学で身につけた心理学や社会学を実践に活かすべく小売業に付いたが、目指すはジャーナリストと自覚し、退職してスポーツライターとしての修行を始めた。そこで車いすテニスと出会い、以降その情報発信をライフワークとしている。T.Tennisなどテニス雑誌の取材も担当、全豪オープンその他メジャー大会のレポートも好評を博している。名古屋出身。

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